労働保険料の会計処理はどうすればいいの?
毎月、従業員へ支払う給料から差し引く労働保険料の会計処理はどのように行なえば良いだろうか、疑問に思う事業者の方は多いと考えられます。
今回はこの労働保険料について、その内容説明と、会計処理の方法を解説していきたいと思います。
労働保険料とはどういうもの?
労働保険とは
労働保険料の会計処理を解説する前に、労働保険料とはどういった内容のものなのか、理解しておく必要があります。
社会保険とは広義の社会保険と、狭義の社会保険とに大きく区分する事が出来ます。
具体的には下記の図をご参照下さい。

上図のように、労働保険とは雇用保険と労災保険に分類することが出来ます。
労働保険は、原則として労働者を1人でも雇った場合には加入義務が発生します。
雇用保険とは、労働者が失業した場合、労働者の生活や雇用の安定確保を目的としている保険になります。
労災保険とは、労働者が通勤中や勤務中に怪我をした場合、手当を受け取ることが出来る保険になります。
労働保険の納付時期
労働保険料の納付時期は、6月1日から7月10日までに行なう必要があります。
なお、7月10日が土日に当たる場合には、翌月曜が申告・納付期限となります。
労働保険料は4月から3月を一事業年度として、7月10日までに、①前年度に支払った概算の保険料額と実際の保険料額との差額を清算し、②合わせて、今年度の概算の保険料額を納付する必要があります。
労働保険料の保険料率
労働保険料は「給与額×保険料率」によって算出されます。
労働保険の料率は、労災保険と雇用保険で異なり、業種によっても異なりますが、昨今の事業形態で多くみられるような「一般サービス業」を例に取ると以下になります。
会社負担分 | 従業員負担分 | 合計 | |
労災保険料 | 0.3% | ー | 0.3% |
雇用保険料 | 0.95% | 0.6% | 1.55% |
※令和6年度時点。労災保険は「その他の各種事業」、雇用保険は「一般の事業」を記載
労働保険料の会計処理はどうすれば良いのか?
労働保険料の会計処理を行うにあたり、使用する主な勘定科目は「法定福利費」になります。
なお、法定福利費を用いるものとしては、労働保険料の他に、健康保険料や年金保険料などの社会保険料を計上する際に使用します。
それでは、労働保険料の会計処理のパターンについて、下記よりご紹介していきたいと思います。
法定福利費のみを用いて処理する方法
法定福利費のみを使用する方法は、最も簡単な会計処理になります。従業員数の少ない中小零細企業が採用することが多いです
ただし、この方法を採用した場合、本来従業員が負担すべき金額も会社の経費として計上してしまう為、税務調査が入った際には、経費の過大計上として指摘されてしまう可能性があります。
下記金額を例として解説していきます。
- 概算保険料:年額120,000円(従業員負担分は年額40,000円/月額3,333円)
- 確定保険料:年額180,000円(従業員負担分は年額48,000円/月額4,000円)
◆概算保険料の納付時
法定福利費120,000円/現預金120,000円
◆毎月の給与支払時(毎月×12回分の仕訳を計上)
給与手当××円/現預金 ××円
/法定福利費4,000円
◆確定保険料の納付時
法定福利費60,000円/現預金60,000円
結果として、法定福利費の合計は、会社負担分の132,000円が計上されます。
預り金を用いて処理する方法
預り金を使用する方法は、上述した法定福利費を使用した場合に比べて、税務上の問題は特にありません。
国税庁が出している法人税法基本通達9-3-3記載されている通りの会計処理になります。
https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/hojin/09/09_03.htm
上述した場合と同様に、以下の金額を例として解説していきます。
- 概算保険料:年額120,000円(従業員負担分は年額40,000円/月額3,333円)
- 確定保険料:年額180,000円(従業員負担分は年額48,000円/月額4,000円)
◆概算保険料の納付時
法定福利費80,000円/現預金120,000
預り金 40,000円/
◆毎月の給与支払時
給与手当××円/現預金××円
/預り金4,000円
◆確定保険料の納付時
法定福利費52,000円/現預金60,000円
預り金 8,000円/
こちらも先ほどの例と同じように、法定福利費の合計は、132,000円が計上されることとなります。
なお、上記記載の例は、確定保険料が概算保険料を上回っているケースを紹介しました。
もし、確定保険料が概算保険料を下回っている場合には確定保険料の納付時の仕訳が貸借反対になります。
発生主義で計上する方法
発生主義により計上する場合、「前払費用」を使用して会計処理を行ないます。
この方法は、上場企業で使用される会計処理であり、仕訳が複雑になる為、中小企業の場合には上述した法定福利費のみを用いる方法や、預り金を用いる方法をおすすめします。
上述した通り、以下の金額を例として解説していきます。
- 概算保険料:年額120,000円(従業員負担分40,000円/月額3,333円)
- 確定保険料:年額180,000円(従業員負担分48,000円/月額4,000円)
◆概算保険料の納付時
前払費用120,000円/現預金120,000円
◆毎月の給与支払時
・従業員負担分
給与手当××円/現預金××円
/前払費用4,000円
・会社負担分
法定福利費7,000円/前払費用7,000円
◆確定保険料の納付時
前払費用12,000円/現預金12,000円
発生主義を採用した場合、法定福利費に計上される金額は84,000円となります。
まとめ
今回は労働保険料の定義と会計処理についてご紹介しました。
会社の経費を行なうにあたり、日頃の収入や経費を計上していく上で、社会保険料の会計処理も必須となります。
社会保険料に限らず、会計処理をする上ではいくつかの処理方法がある為、会計や税務の知識が乏しい人の場合、混乱することも否定出来ません。
実務上は、法定福利費のみを使用して会計処理を行う会社が多い為、立替金として処理するのが難しいと思えば法定福利費のみで会計処理されることをおすすめします。
弊社は社会保険労務士も在籍しておりますので、ご不明な点がございましたらお気軽にご相談下さい。