労務

管理監督者に残業代は不要?管理監督者該当性が否定された際のリスクは?

管理職になったら「管理監督者」にあたるため残業代は支給する必要がない、と誤解されている方も少なくないのではないでしょうか。

本記事では管理監督者の要件と、管理監督者該当性が否定された事例、よくある質問をまとめました。

管理監督者とは?

「管理監督者」は「経営者と一体的な立場」で働き重要な職務を遂行する者で、労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の制限を受けません。

管理監督者の要件

「管理監督者」に該当するかどうかは、部長や店長等の役職名にとらわれず、経営者と一体的な立場にあるか実態に即し判断されます。

具体的には以下のような点を満たすかがポイントとなります。

  1. 経営者と一体的な立場で仕事をしている(経営者から管理監督・指揮命令に関する一定の権限が与えられている)
  2. 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない(遅刻早退により賃金が控除されない)
  3. その地位にふさわしい待遇がなされている

職務内容についても以下のような権限が求められます。

  • 経営者会議に参加することができる
  • 経営方針について発言権がある
  • 採用・解雇や人事考課について責任や権限を有している

管理監督者と認められなかった裁判例

以下に管理監督者該当性が否定された裁判例、否定された理由を紹介します。

●マクドナルド事件(東京地判平成20年1月28日)

  • 地位:店長
  • 理由:営業時間、商品の種類と価格、仕入れ先などについては本社の方針に従わなければならず、企業全体の経営方針へも関与していない。交代勤務に組み込まれて時間外労働が月100時間を超える場合がある程の長時間の時間外労働を余儀なくされている。店長の下位の職位の平均年収と比較しても十分な待遇とはいえな。

●育英舎事件(札幌地裁判決 平成14年4月18日)

  • 地位:学習塾の営業課長
  • 理由:人事管理を含めた運営に関する管理業務全般の事務を担当していたが、裁量的な権限が認められていな かった。出退勤についてもタイムカードへの記録が求められ、他の従業員と同様に勤怠管理が行われていた。 給与等の待遇も一般従業員と比較してそれほど高いとはいえなかった。

●マハラジャ事件 (東京地裁判決 平成12年12月22日)

  • 地位:インド料理店の店長 
  • 理由:店長としての管理業務に比べ゙、店員と同様の接客及び掃除等の業務が大部分を占めていた。店員の採用権限及び労働条件の決定権限がなかった。 店舗の営業時間に拘束されており、出退勤の際に必ずタイムカードを打刻しており、継続的に出退勤管理を受けていた。役職手当等の管理職の地位に応じた手当が支給されたことはなかった。

●サンド事件(大阪地裁判決 昭和58年7月12日)

  • 地位:生産工場の課長
  • 理由:工場内の人事に関与することはあっても、独自の決定権はなかった。勤務時間の拘束を受けており、自由裁量の余地はなかった。会社の利益を代表して工場の事務を処理するような職務内容・裁量権限・待遇をあたえられていなかった。

●ほるぷ事件(東京地裁判決 平成9年8月1日)

  • 地位:出版会社の販売主任
  • 理由:過去に営業所長を経験し、支店長会議に出席することもあったが、支店営業方針の決定権限はな かった。支店販売課長に対する指揮命令権限をもっていたとは認められない。またタイムカードに より厳格な勤怠管理を受けていた。

管理監督者の労働基準法上の扱い

残業・休日出勤手当の対象外になる

管理監督者には労働基準法上の労働時間の上限(1日8時間・週40時間)が適用されません。

そのため、管理監督者には残業手当・休日出勤手当ともに支給されません。

深夜割増手当は支給される

残業手当の支給はありませんが深夜労働については適用除外とならず、22時〜翌日5時の勤務には深夜割増手当が支給されます。

年次有給休暇は付与される

年次有給休暇については他の従業員と同様に法定通り付与されます。

10日以上付与される場合、1年間で5日以上の消化をしなければならない点も他の従業員と同様です。

管理監督者についてのよくある質問

勤怠を記録しなくてもいい?

管理監督者であっても過重労働による健康障害防止や深夜業に対する割増賃金の支払の観点から労働時間の把握や管理は必要です。

そのため従業員と同様に勤怠は記録するようにしましょう。

管理監督者は1日中休憩を取らずに働いてもいい?

管理監督者には休憩時間も適用されないため休憩を取らせずに働かせることが可能です。

ただし健康管理の義務は課せられているため、長時間労働になりすぎないよう留意しましょう。

管理監督者該当性が否定された際のリスクは?

管理監督者該当性が否定された場合、管理監督者に該当するとして支払っていなかった残業代を遡及して支払う必要が発生する等のリスクがあります。

管理監督者性が否定されたことにより、残業代未払の労働基準法違反で罰金刑に処せられた刑事裁判例もあります。

管理監督者の労働基準法上の扱いまとめ

管理監督者の労働基準法上の扱いを以下にまとめました。

適用
労働時間(1日8時間・週40時間)×
時間外手当×
深夜割増手当
フレックス・変形労働時間制×
休憩・休日×
休日出勤手当×
年次有給休暇
安全配慮義務
健康管理の義務

管理監督者については、役職名だけでなく勤務実態に即して判断される点がポイントです。

管理監督者の扱いについて不安がある場合はぜひご相談ください。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士