会計・税務

【税理士が解説】法人設立費用はいくら?株式会社・合同会社の違いと法人設立前に知るべき費用と節税!損しない会社設立の完全ガイド

「自分の事業をさらに大きくしたい」、「社会的信用を高めたい」そのように考え、法人設立を視野に入れている事業主様、起業家の皆様。

法人化は、事業成長の大きなステップとなる一方で、設立には多くの準備と費用が伴います。

「一体、何から手をつければいいのだろう?」、「設立費用は、全部でいくらかかる?」、「少しでも費用を抑えて、有利なスタートを切りたい」などといった疑問や不安をお持ちではないでしょうか。

これまで多くの法人設立に携わってきた経験から断言できるのは、「法人設立の成否は、設立前段階の準備で9割決まる」ということです。

この記事では、これから法人を設立しようとお考えの皆様が、スムーズで後悔のないスタートを切れるよう、「設立前段階で決めるべきこと」と「設立費用の全貌と節税のポイント」を、専門家の視点から分かりやすく解説します。

本記事を読むことで、法人設立への具体的な道筋と、コストを抑えながら有利な経営を始めるための知識が身に付くはずです。

なぜ法人化するのか?設立前にメリットを再確認

具体的な手続きの話に入る前に、なぜ法人化を目指すのか、そのメリットを再確認しておきましょう。

目的が明確になることで、設立準備へのモチベーションも高まります。

法人設立によるメリット

メリット①:社会的信用の向上

法人格を持つことで、個人事業主よりも取引先や金融機関からの信用度が高まります。大規模な取引や融資、人材採用において有利に働くでしょう。

メリット②:責任の範囲が限定される(有限責任)

株式会社や合同会社の場合、万が一事業が失敗しても、出資者は出資額の範囲内で責任を負う「有限責任」となります。個人事業主の「無限責任」とは大きな違いです。

メリット③:役員報酬と給与所得控除

自分自身への給料を「役員報酬」として経費にでき、さらに給与所得控除が適用されるため、個人の所得税・住民税を大きく圧縮できる可能性があります。

メリット④:経費にできる範囲の拡大

生命保険料や出張手当などを、個人事業主よりも広く経費として計上できます。

メリット⑤:消費税の免税

資本金1,000万円未満で設立した場合、原則として設立から最大2年間、消費税の納税が免除されます。(※インボイス制度の登録状況により異なります)

メリット⑥:欠損金の繰越控除

赤字(欠損金)を翌年度以降10年間繰り越して、将来の黒字と相殺できます。(個人事業主は3年間)

これらのメリットを最大限に活かすためにも、次の「設立前段階」の準備が極めて重要になります。

【設立前段階】会社設立前に決めておくべき7つの重要事項

登記申請書を作成する前に、会社の骨格となる基本事項を決定する必要があります。

これらは会社の憲法ともいえる「定款(ていかん)」に記載する重要な内容であり、後の経営や税金に大きく影響します。

決めておくべき事項①:商号(会社名)

同一の本店所在地に、同じ商号の会社は登記できません。法務局のサイトなどで類似商号の調査を行い、独自性のある名前を考えましょう。

決めておくべき事項②:事業目的

「何を事業として行うか」を具体的に記載します。将来的に行う可能性のある事業も、あらかじめ記載しておくのがポイントです。許認可が必要な事業(建設業、飲食業など)を行う場合は、その要件を満たす文言を必ず入れましょう。

決めておくべき事項③:本店所在地

会社の住所です。自宅、賃貸オフィス、バーチャルオフィスなど選択肢は様々ですが、許認可によってはバーチャルオフィスが認められない場合もあるため注意が必要です。

決めておくべき事項④:資本金の額

1円からでも会社は設立できますが、安易に決めるのは危険です。資本金は「会社の体力」を示す指標であり、取引先の信用度にも影響します。当面の運転資金(3ヶ月~6ヶ月分)を目安に設定するのが一般的です。 また、資本金の額は税金に直接影響します。

  • 1,000万円未満:設立後、原則最大2年間の消費税免税のメリットを享受できます。
  • 1,000万円以上:設立1年目から消費税の課税事業者となります。
  • 1億円以下:中小企業向けの税制優遇(軽減税率など)が受けられます。

決めておくべき事項⑤:発起人・役員の構成

誰が会社を設立し(発起人)、誰が経営を行うのか(役員)を決めます。一人で発起人兼取締役となる「一人会社」も可能です。

決めておくべき事項⑥:事業年度(決算月)

多くの会社が3月決算ですが、自由に決めることができます。決算月の決め方は、税務戦略上非常に重要です。

  • 繁忙期を避ける:本業が忙しい時期と、決算・申告業務が重ならないように設定しましょう。
  • 消費税の免税期間を最大限に活用する:設立日から最も遠い月を決算月に設定すると、消費税の免税期間を最も長く享受できます。(例:4月1日設立なら3月決算)

決めておくべき事項⑦:会社の種類(株式会社か合同会社か)

どちらも有限責任ですが、特徴と設立費用が異なります。

株式会社合同会社(LLC)
最も一般的な形態で、社会的信用が高いのが特徴です。株式を発行して資金調達ができますが、設立費用は高めです。設立費用が安く、経営の自由度が高いのが特徴です。迅速な意思決定が可能で、近年増えている形態です。

【設立費用】株式会社と合同会社、総額はいくら?

いよいよ、気になる設立費用についてです。費用は大きく分けて「法定費用」と「その他の費用」があります。

法定費用(必ずかかる費用)

株式会社合同会社備考
定款用収入印紙代40,000円40,000円電子定款なら0円
定款認証手数料30,000円~50,000円不要公証役場に支払う手数料
登録免許税資本金の0.7% (最低150,000円)資本金の0.7% (最低60,000円)法務局に支払う税金
合計(紙の定款)約240,000円~約100,000円
合計(電子定款)株式会社:約200,000円~約60,000円

ご覧の通り、電子定款を利用するだけで、印紙代の4万円を節約できます。

これは専門家に依頼した場合でも、自分で手続きする場合でも同様です。

また、合同会社は株式会社に比べて設立費用を大幅に抑えられることが分かります。

その他の費用

会社の実印作成費用1万円~3万円程度
印鑑証明書などの発行手数料数百円~数千円程度
専門家(司法書士、税理士など)への依頼報酬5万円~15万円程度

専門家に依頼すると報酬はかかりますが、電子定款の作成に対応しているため結果的に費用が安くなるケースもあります。

何より、複雑な手続きをミスなく迅速に進め、設立後の税務顧問まで見据えた最適なアドバイスを受けられるメリットは非常に大きいでしょう。

設立費用も経費になる!「創立費・開業費」の賢い活用法

「設立前に支払ったコンサルティング費用や、設立登記の費用は経費にならないの?」 ご安心ください。これらの費用は「創立費」や「開業費」として、設立後の会社の経費に計上できます。

賢い活用法①:創立費

定款作成費用、登録免許税、発起人の報酬など、会社の設立そのものにかかった費用。

賢い活用法②:開業費

会社設立後、事業を開始するまでの準備にかかった費用。(例:事務所の家賃、広告宣伝費、名刺作成費など)

これらは「繰延資産」として会計処理され、好きな年に好きな金額だけ経費として償却できる(任意償却)という、非常に有利な特徴があります。

例えば、設立1年目は赤字だったとします。

この年に創立費・開業費を急いで経費にする必要はありません。

赤字がさらに増えるだけです。

そうではなく、事業が軌道に乗り、大きな利益が出た年に経費として計上することで、その年の法人税を効果的に圧縮できるのです。

このメリットを最大限に活かすためにも、設立前段階から支払った費用の領収書は、必ず会社名宛で保管しておくようにしましょう。

まとめ

法人設立は、単なる手続きではありません。

あなたの事業を次のステージへ進めるための重要な経営戦略です。

  • 設立前段階で、事業目的や資本金、決算月などを戦略的に決めること。
  • 設立費用の種類と相場を理解し、電子定款などで賢くコストを抑えること。
  • 設立にかかった費用を「創立費・開業費」として計上し、将来の節税に繋げること。

これらのポイントを押さえることで、設立後のスムーズな経営と税務上のメリットを両立させることが可能になります。

法人設立はゴールではなく、新たなスタートです。

この大切なスタートラインでつまずかないためにも、専門家である税理士への相談は有効な選択肢の一つです。

税理士は、設立手続きのサポートはもちろん、設立後の資金繰りや税務申告まで、長期的な視点であなたの事業を成功に導くパートナーとなります。

この記事が、あなたの輝かしい船出の一助となれば幸いです。

Conduct

植西 祐介
コンダクトグループ(株式会社コンダクト/税理士法人コンダクト/社会保険労務士法人コンダクト) 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士