労務

社会保険の加入条件とは?短時間労働者への適用拡大でどう変わる?

会社に勤める人が一定の条件を満たせば加入できる社会保険(厚生年金・健康保険)。

本記事では、正社員・パート・アルバイト・派遣労働者の雇用形態別の社会保険の加入条件をまとめました。

2022年からは段階的に社会保険の加入条件が緩和され、加入対象者が拡大しています。

社会保険の適用拡大に向け、加入条件をおさらいしましょう!

社会保険の加入条件は?

役員・正社員の社会保険加入条件

代表取締役等の役員と常時雇用されている正社員はすべて社会保険の加入対象です

対象となるのは雇用されている従業員のみで、業務委託やフリーランスの場合は報酬額にかかわらず社会保険には加入できません

(国民健康保険・国民年金に加入します。)

パート・アルバイトの社会保険加入条件

正社員でなくとも、一定の条件を満たすと社会保険の加入対象となります。

パート・アルバイトの場合の加入条件は、「1週間の所定労働時間・1月の所定労働日数が常時雇用者の4分の3以上であること」です。

給与の金額にかかわらず、労働時間・労働日数によって判断します。

「所定労働時間の4分の3以上」とはどのくらい?

例)正社員の所定労働時間が40時間の場合

  • 週に30時間以上勤務している
  • 月の所定労働日数の4分の3以上勤務している

という場合に要件を満たします。

正社員の所定労働時間は一般的には週40時間の場合が多いため、「週30時間を超えて勤務するパート・アルバイトは社会保険に加入する」と覚えておくと良いでしょう。

社会保険の適用拡大

社会保険の適用拡大により、所定労働時間・所定労働日数が正社員の4分の3未満であっても、以下①〜⑤すべてに該当する場合は社会保険への加入が必要となりました。

  1. 週の所定労働時間が20時間以上である
  2. 2ヵ月を超える雇用の見込みがある
  3. 賃金が月88,000円以上である
  4. 学生でない(定時制や夜学を除く)
  5. 従業員が101人以上の事業所に勤めている

⑤については、2024年10月には「51名以上の事業所」へさらに対象が拡大されるため、注意が必要です。

社会保険に加入すると保険料が毎月の給与から控除されるため、トラブルを防ぐためにも対象者には事前に通知しておくと良いでしょう。

派遣労働者の社会保険加入条件

派遣労働者の場合も正社員・パート・アルバイトと同様に考えます。

加入条件を満たす場合、派遣労働者は雇用主である【派遣元】の会社で社会保険に加入します。

社会保険の加入についてのQ&A

Q1 従業員が社会保険に入るのを嫌がるときは?

加入条件を満たす場合は社会保険への加入は義務であり、加入しないという選択をすることはできません。

しかし保険料の負担などから従業員が加入を拒否するケースも少なくありません。

加入しない従業員がいる場合のリスクとしては、数年に一度実施される年金事務所からの調査の際に遡及して加入するよう指摘される点が挙げられます。

遡及して社会保険に加入すると、最大2年分の保険料を一括で納める必要があり、会社にとっても本人にとっても大きな負担となります。

社会保険に加入すると保険料負担のデメリットだけでなく

  • 将来もらえる年金額が増える
  • 出産、傷病で会社を休んだ際に給与の約2/3が健康保険から支給される

などのメリットがあります。

厚生労働省のハンドブックなども活用し、保険料負担のデメリットだけでなくメリットもあることを説明して説得しましょう。

▶︎厚生労働省のハンドブックはこちらからダウンロードできます。

Q2 一時的に社会保険の加入条件を満たさなくなった時は?

病気やけがなどによる休職で一時的に社会保険の加入要件を満たさなくなった場合はどうなるのでしょうか?

雇用契約上の所定労働時間は変わらず、一時的に休職している・一時的に労働時間や日数が減少している場合であれば社会保険の加入資格はなくなりません

また、要件を満たせば健康保険から傷病手当金も支給されます。

ただし、休職期間中も会社負担分・本人負担分ともに社会保険料はかかります。

トラブルを防ぐために、「本人負担分については毎月会社へ振り込む」など休職中の社会保険料の取扱を就業規則等で事前に取り決めておく必要があります。

Q3 国民健康保険に加入している従業員が社会保険に加入した場合の手続きは?

会社で社会保険の資格取得をした時点で、従業員自身で国民健康保険の脱退手続きをしてもらってください。

また、社会保険加入日以降に国民健康保険の保険証を使ってしまうと一時的に治療費を全額立て替えることになったり、煩雑な返金手続きが発生します。

社会保険加入日以降は従前の保険証は使わず速やかに脱退手続きをするようあらかじめ指導が必要です。

Q4 副業・ダブルワークをしている場合はどちらの会社で社会保険に入る?

副業・ダブルワークをしている場合は加入要件を満たしている方の会社で社会保険に加入します。

また、加入条件を満たしていればダブルワークをしている両方の会社で社会保険に加入する必要があります。

例)

    • パターン1
      会社①:正社員として勤務
      会社②:週10時間勤務
      会社①のみで社会保険に加入
       会社①のみの給与額で社会保険料が決定される
    • パターン2
      会社①:正社員として勤務
      会社②:週30時間勤務
      会社①②両方で社会保険に加入
       社会保険料は両方の給料の合計額から算出され、それぞれの給料から天引きされる
    • パターン3
      会社①:週15時間勤務
      会社②:週10時間勤務
      会社①②両方で社会保険に加入しない
       (国民健康保険・国民年金に加入)

社会保険の加入条件まとめ

役員・
正社員
原則全員加入
パート・
アルバイト
1週間の所定労働時間・1月の所定労働日数が正社員の4分の3以上である場合加入
※ただし4分の3未満であっても、以下に該当する場合は加入する
①週の所定労働時間が20時間以上
②2ヵ月を超える雇用の見込みがある
③月額賃金が88,000円以上
④学生でない(定時制や夜学を除く)
⑤従業員が101人以上の事業所に勤めている
 (2024年10月には「51名以上の事業所」へ対象が拡大される)
派遣労働者正社員・パート・アルバイトと同様※派遣元の会社で加入

条件を満たした場合は加入拒否はできず、必ず加入しなければなりません。

加入漏れには罰則や保険料の遡及徴収のリスクもあるため、加入条件はしっかり押さえておきましょう。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士