労務

残業代の未払いが発生してしまう3つの理由と考えられるリスク

未払い残業代・未払い賃金は社会問題になっており、厚生労働省から公表された賃金不払い事案に対する監督指導結果によると、2022年中に労働基準監督署の是正指導により賃金を支払ったのは約2万事業場で支払い総額は79億円にのぼります。

また、ベンチャー・スタートアップがIPO準備をする際や、中小企業がM&Aで会社売却をする際においても「未払い残業代が発生していないか」は必ず調査項目となる重要な論点です。

本記事では未払い残業代が発生してしまう理由と残業代の未払いについてのリスクを解説しています。

未払い残業代とは?

未払い残業代とは、会社に支払い義務があるにも関わらず適切に支払われていない残業代のことです。

労働基準法37条では、時間外、深夜(原則として午後10時~午前5時)に労働させた場合には2割5分以上、法定休日に労働させた場合には3割5分以上の割増賃金を支払わなければならないと規定されています。

未払い残業代が発生してしまう理由

勤怠管理が正しくできていない

未払い残業代が発生してしまう理由として、以下のように勤怠管理が正しくできていないというケースが考えられます。

  • タイムカード、勤怠システム等を使用した勤怠管理がそもそもできていない
  • タイムカードを切ってから残業したり始業前の朝礼が終わってから打刻する等、打刻が正しくできていない
    (本来は残業・早出残業とするべき時間を労働時間として記録できていない)
  • 1日の労働時間を15分、30分単位の切り捨てで集計している
    (労働基準法上は1分単位での管理が必要)

上記のような場合、PCのログや従業員本人のメモのような記録で客観的に残業時間が確認できる場合は裁判で未払い請求が認められる可能性が高くなります。

残業代の計算方法が誤っている

残業代を支給しているが、計算方法が誤っているというケースです。

  • 残業手当の計算に含めるべき手当を含められていない
  • 月60時間以上の残業については割増率50%で計算が必要だが25%で計算してしまっている

などの可能性が考えられます。

とくに新しい手当が追加された際は、給与計算システムの設定漏れで残業手当の計算に含まずに計算してしまっていたという可能性も高いので注意が必要です。

残業代の詳しい計算方法については次回の記事で解説します。


認識の誤りによる未払い

残業代についての認識の誤りにより正しく支給できていなかったというケースも多くみられます。

①管理職なので残業代を支払っていない

労働基準法上の「管理監督者」に該当する場合であれば、残業代の支給は不要です。

しかし、一般的に想定される「管理職」と労働基準法上の「管理監督者」には大きな違いがあります

管理監督者の要件
  • 経営者と一体的な立場である
  • 会社に労働時間を規制されず、出退勤の自由がある
  • 管理監督者の地位にふさわしい待遇がされている

未払い残業代について裁判になった場合、対象の従業員が本当に管理監督者に該当するのかが争点になります。

また、管理監督者に該当する場合でも22時〜翌朝5時の労働に対しては深夜手当の支給が必要です。

②裁量労働制を採用しているので残業代を支払っていない

裁量労働制を採用している場合、原則として残業代は発生しません。

ただし、以下の場合には残業代を支払う必要があります。

  • みなし労働時間が法定労働時間を超える場合
  • 深夜に労働をした場合
  • 休日に労働をした場合

③会社指示の残業ではないので支払っていない

残業が許可制の場合で上司が許可をしていなくても、残業を黙認していた場合は残業代支払いの対象であると判断される可能性が高いです。

定時で終わらせられる量の仕事量であったかも争点になります。

④固定残業代を支払っているので支払っていない

固定残業代(みなし残業代)とはあらかじめ一定の残業時間についての残業代を毎月固定で支給する制度です。

しかし、みなし時間を超えて残業をした場合はその分について追加で残業代を支給する必要があります

例)40時間分の固定残業代を支給している従業員が45時間の残業をした場合

→40時間を超えた5時間分については残業代の支給が必要です。

残業代の未払いによるリスク

従業員からの未払い残業代の請求

いちばんのリスクは従業員からの未払い残業代の請求により多額の支払いが発生すること。

現在、残業代の請求についての消滅時効は3年とされています。

また、裁判所により残業代の未払いが悪質であると判断された場合は未払い残業代と同額の付加金を上乗せして支払うよう求められることもあります。

請求により未払い賃金を支払った前例ができれば、他の従業員も連鎖して未払い残業代を請求するというリスクも十分に考えられます。

労働基準監督署への申告

未払い残業代がある場合、従業員が労働基準監督署に申告する可能性もあります。

立ち入り検査が行われた結果、会社に法令違反がある場合には是正勧告がされます。是正勧告事態に強制力はありませんが、悪質と判断された場合・改善が見られない場合には、逮捕や書類送検となるケースも

法令違反はないものの改善すべき事項がある場合は指導票が交付されます。

企業イメージへの悪影響

未払い残業代についての訴えがあったことが知られると、企業イメージの悪化は免れません。

多額の未払い金の支払いに加え、企業イメージの悪化による業績の悪化による経営の逼迫のリスクもあります。

まとめ

上記のようにリスクが大きい残業代の未払い。

故意でなくても、認識や計算の誤りで発生してしまっている可能性も考えられます。

残業代の未払いを発生させないようにする方法としては

  • 残業をしない風土づくり
  • 勤怠管理システムを導入して正しく管理する
  • 給与計算にミスがないか見直す

などの方法が考えられます。

残業代の未払いについてご不安のある方はぜひご相談ください。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士