会計・税務

年末調整の実務でよくある質問まとめ

前回の記事では年末調整とは何か、概要や必要書類の記載内容についてご紹介しました。

今回は年末調整で皆様が疑問に思う点についてQ&A形式でご紹介するとともに、令和5年度における改正点についても合わせて解説したいと思います。

年末調整よくあるQ&A

ダブルワークをしている場合の年末調整はどうなる?

ダブルワークをしている場合は年末調整についてどのように対応すれば良いのでしょうか?

年末調整は1つの職場でしか行う事が出来ません。

その為、扶養控除等申告書を提出している職場を本業として、本業の方で年末調整を行う必要があります

加えて、本業以外の職場からの所得が20万円を超えている場合には、本業の収入とそれ以外の収入とを合算した金額で確定申告を行ないます。

なお、本業以外からの収入には契約内容や事業規模によって、「給与所得」、「事業所得」、「雑所得」の3つに分けられる点にも注意が必要です。

年末調整の対象になる給与金額は?

12月分給料を翌年1月に支給する場合、12月分給料は年末調整の対象でしょうか?

年末調整の対象になるのは、年内に支給された給与です。

すなわち、年内に支払いを受けた給料の総額が年末調整の対象になる為、12月分給料の支給日が翌年1月である場合、本年の年末調整の対象ではありません。 

前職の源泉徴収票がない場合はどうしたらいい?

年の途中で入社したのですが、前の職場の源泉徴収票がない場合にはどうすれば良いでしょうか?

前の職場の給与明細で対応する必要があります。

年の途中で入社した場合には、前職で受領していた給料も加味して年末調整を行う必要があります。

源泉徴収票がない場合には、毎月の給与明細より年末調整の対象金額を計算します。

年末調整で住宅ローン控除の適用は受けられる?

年末調整で住宅ローン控除の適用を受けることは可能でしょうか?

年末調整で住宅ローン控除の適用を受けることは可能です。

適用を受ける為には銀行が発行する年末の借入金残高が分かる証明書と、税務署から送られてくる住宅借入金等特別控除申告書を勤務先に提出する必要があります。

ただし、住宅ローン控除の適用を受けられるのは2年目からです

その為、住宅を購入した1年目は確定申告が必要になります。

別居の家族も扶養控除の対象になる?

控除対象扶養親族に、別居している親族は対象になるのでしょうか?

扶養親族とは、本人と生計を一にする親族で、合計所得金額が48万円以下の人が該当します。

扶養親族に該当する要件として、「生計を一にする」という点が挙げられていますが、これは必ずしも同居している事を意味しているものではありません。

別居している親族であっても、常に生活費や学費等の仕送りをしている場合には、生計を一にしている事になるので、扶養控除の対象となります

なお、国外に居住する親族の場合、扶養控除の適用を受ける為には、親族であることが証明できる「親族関係書類」と、送金していることが証明できる「送金関係書類」が必要になってきます。

医療費控除やふるさと納税の寄附金控除について

年末調整で医療費控除や寄附金控除の適用を受ける事は出来るのでしょうか?

医療費控除や寄附金控除を年末調整で受ける事は出来ません。

医療費が多い人や、ふるさと納税などを行なっている人は、確定申告により適用を受けることが可能です。

生計を一にする親族の社会保険料について

生計を一にする親族の社会保険料を支払った場合、年末調整で社会保険料控除の適用を受ける事が出来るのでしょうか?

社会保険料控除は、自分や生計を一にする配偶者・その他の親族が負担すべき社会保険料を支払った場合には、その支払った人が社会保険料控除の適用を受けることが可能です。

令和5年度年末調整のポイント

令和5年分における年末調整について、昨年度と変更になった改正点を以下ではご紹介していきます。

h3 電子データの取得範囲の拡大

マイナポータルにより、下記控除証明書を電子データにより取得することが可能になります。

なお、電子データにより取得が可能となるのは、いずれも令和5年10月からになります。

発行主体控除証明書
国民年金基金連合会(全国国民年金基金)社会保険料控除証明書
国民年金基金連合会(iDeCo)小規模企業共済等掛金控除証明書
独立行政法人 中小企業基盤整備機構小規模企業共済等掛金控除証明書

h3 非居住者に対する扶養控除の見直し

令和5年分の年末調整において、非居住者に対する親族を扶養している場合の扶養控除について対象範囲が改正されております。

扶養している親族の状況と必要書類については下記図を参考にして下さい。

非居住者である扶養親族必要書類
16歳以上30歳未満又は70歳以上・親族関係書類・送金関係書類
留学生・親族関係書類・留学ビザ等の書類・送金関係書類
障害者・親族関係書類・送金関係書類
30歳以上70歳未満・親族関係書類・38万円以上の送金関係書類

上図より、30歳以上70歳未満の場合には、38万円以上の送金が必要となる点に注意が必要です。

住宅ローン控除について

住宅ローン控除について、令和4年に居住している住宅ローン控除については、下図の旧制度か新制度のいずれかの適用となるので、注意が必要です。

旧制度(特別特例取得)新制度
借入限度額4,000万円3,000万円
控除率1年目~10年目…1%11年目~13年目…最高1%0.7%
合計所得金額の要件3,000万円以下※2,000万円以下

※床面積が40㎡以上50㎡未満の場合には、1,000万円以下

まとめ

今回は、年末調整における経理担当者や人事労務担当者が疑問に思う点をQ&A形式でご紹介した後、令和5年分における年末調整の改正点について解説しました。

様々なものが電子化となってきており、上述したように各種控除証明書についてもマイナポータルを利用して電子取得が可能となります。

2024年1月からは電子帳簿保存法の義務化も徹底されますので、これまで紙での対応を行っている事業者の皆様は、少しずつ電子化への対応もご検討されることをおすすめ致します。

今年も早いものであと3ヶ月となりましたので、年末調整の準備を少しずつ始めておくと良いかと思います。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士