会計・税務

退職金を支給する場合における税務上の注意点について

前回の記事では従業員の退職時に労務まわりでするべきことを解説しました。

今回は、退職金を支給する際、税務上注意するべき点について解説します。

退職所得の定義と税金の計算方法

退職所得の定義

退職所得とは、退職したことにより勤務先から受ける退職金収入の事を言います。

その他に、社会保険制度などにより退職に基因して支給される一時金、確定拠出年金法に規定する企業型年金規約、または個人型年金規約に基づいて老齢給付金として支給される一時金なども退職所得とみなされます。

退職所得の計算方法

退職所得は、下記算式によって計算されます。

(収入金額(源泉徴収される前の金額) - 退職所得控除額) × 1/2 = 退職所得の金額

なお、退職所得控除額は、下記算式により計算されます。

勤務年数退職所得控除額
勤続年数20年以下40万円×勤続年数
勤続年数20年超800万+70万×(勤続年数−20年)

例えば、勤続年数が25年で、退職金を2,000万円受け取った場合の計算例は以下になります。

  • 退職所得控除額:800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円
  • 退職所得:2,000万円ー1,150万円=850万円

よって、850万円に対して、分離課税が計算される事となります。

退職金を受け取った時の二つの納税方法

退職金を受け取った時、その納税方法は「退職所得の受給関する申告書」を提出している場合と、提出していない場合とで、方法が異なってきます。

以下ではそれぞれのケースについて解説していきます。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合

退職金を受け取った場合、退職金に対する所得税を計算する方法は、分離課税といいます。

他の所得とは合算せずに上述した課税退職所得の金額に対して、所得税率を乗じて税額控除を差し引いた金額が退職金に対する所得税額になります。

なお、所得税率と税額控除の金額は下記の表になります。

「国税庁 タックスアンサーNo.2260所得税の税率」引用

しかし、上述した通りの税額を計算するためには、「退職所得の受給に関する申告書」の提出が必要になります。

この「退職所得の受給に関する申告書」とは、退職金を受け取る人が、退職金の支払先である勤務先へ提出する書類になります。

この書類へ記載する内容は、支払先である勤務先の所在地や名称のほか、退職金を受け取る本人の住所や氏名などを記載する必要があります。

その他の記載項目として、退職金を受け取ることになった年月日、勤続年数、過去に退職金を受給していた場合にはその内容などを記載する必要があります。

「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合

退職金受け取り時に、支払者である勤務先へ「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合には、退職金に対して、一律20.42%の源泉所得税を差し引いた金額が支給されます。

上述した「退職金の受給に関する申告書」を提出している場合には、退職所得控除の金額を差し引いた金額に対して税率を乗じるので、所得税を大幅に抑える事が出来ました。

しかし、「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合でも、受給者本人が確定申告を行なうことによって、所得税は清算されます。

よって、この申告書を提出していない場合には、納税額が増える可能性が大きい為、確定申告を行うことを忘れないようにしましょう。

退職金を受給する側と支給する側で注意すべき点とは

退職金を受給する側の注意点

退職金を受け取った従業員が注意すべき点としては、下記内容が挙げられます。

上述した「退職金の受給に関する申告書」を勤務先へ提出する。

上記書類を提出していない場合、一律20.42%の課税をされてしまう為、上記書類は勤務先へ必ず提出しておく必要があります。

理由としては、所得税における所得控除として、扶養控除や配偶者控除などは、その年の合計所得金額で判定します。

したがって、退職所得を反映しない場合、本来適用することが出来ない所得控除の適用を受けてしまう可能性も考えられるので、退職金を受け取った場合には、確定申告の際にも改めて反映させる事が必要になります。

退職金を支給する側の注意点

退職金を支払った勤務先が注意すべき点としては、下記内容が挙げられます。

「退職金の受給に関する申告書」を、退職金を受けた従業員から取得する。

上述した通り、上記書類がない場合には、退職金に対して20.42%の源泉徴収を行う必要があります。

通常は、この申告書の存在を知らない従業員がほとんどですので、会社側か本書類を案内することで、従業員から「退職金の受給に関する申告書」を記載してもらって取得しましょう

過去に退職金を受け取っている場合には、退職所得控除の計算に注意する。

退職金を受け取る従業員が、過去4年以内に退職金を受け取っている場合、退職所得控除額を計算する上で必要な勤続年数の計算が複雑になる為、注意が必要です。

まとめ

退職金を受け取った場合の税務上における取り扱いと注意点について解説しました。

実務上、勤務先が「退職金の受給に関する申告書」を従業員へ渡す事を失念してしまうケースが多く見られます。

上記書類がないと退職所得控除が適用出来ない為、退職金を受け取った場合には「退職金の受給に関する申告書」を忘れずに準備するようにしましょう。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士