労務

算出方法は2パターン!固定残業代の計算方法について具体例で解説

固定残業代導入時の注意点についてこちらの記事で紹介しました。

今回は、実際に固定残業代を支給する際の金額の計算方法を具体的なケースごとにお伝えします。

計算方法①:固定残業を含むベース給与を基本給と固定残業に分割する方法

ケース1:ベース給与が基本給のみで他の手当はないAさんの場合

【ケース1 Aさんの詳細】

  • ベース給与:250,000円
  • 年間休日:120日
  • 1日の所定労働時間:8時間
  • 月30時間分の固定残業代を含めたい

総支給額=ベース給与から固定残業代の金額を分けて決定したい場合は、以下の式で計算できます。

固定残業代=総支給額÷{月平均所定労働時間+(固定残業時間×1.25)}×固定残業時間×1.25

月平均所定労働時間を求める式

(365日-1年の休日合計日数)×1日の所定労働時間÷12ヵ月

ケース1のAさんの場合、固定残業代を求める式は以下の通りです。

  • 月平均所定労働時間=(365-120)×8÷12=163.33
  • 固定残業代=250,000÷{163.33+(30×1.25)}×30×1.25≒46,682

したがって基本給は203,318円、固定残業代は46,682円となります。

給与明細の項目
・基本給  :203,318円
・固定残業代:46,682円

ケース2:ベース給与の中に複数の手当を含むBさんの場合

【ケース2 Bさんの詳細】

  • ベース給与:200,000円
  • 役職手当:30,000円
  • 資格手当:20,000円
  • 通勤手当:15,000円
  • 年間休日:120日
  • 1日の所定労働時間:8時間
  • 月30時間分の固定残業代を含めたい

ベース給与以外の手当を支給したい場合は、まずは手当ごとに割増賃金の算定基礎となる手当かどうかを判断します。

割増賃金の算定基礎とならない手当

割増賃金算定の際に除外できる手当は次の手当に限定されています。

(労基法第37条第2項、施行規則第21条)

  • 家族手当・通勤手当・別居手当・子女教育手当・住宅手当
  • 臨時に支払われた賃金・1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金

限定列挙のため、上記のいずれにも該当しない手当は、全て算入する必要があります。

今回のBさんの場合、役職手当と資格手当は割増賃金の算定基礎となり、通勤手当は対象外となります。

よって、割増賃金の算定基礎となる給与額は20万円+3万円+2万円=25万円。

月平均所定労働時間、固定残業時間も同じためAさんと同様に固定残業代は46,682円となります。

給与明細の項目
・基本給  :153,318円
・役職手当 : 30,000円
・資格手当 : 20,000円
・通勤手当 : 15,000円
・固定残業代: 46,682円

固定残業の導入により最低賃金を下回っていないか要確認

計算方法①を採用する場合、ベース給与を基本給と固定残業代に分割した後で、最低賃金以下になっていないかの確認が必要です。

最低賃金には精皆勤手当、通勤手当及び家族手当、残業手当(固定残業代も含む)は含めることができません。

上記のBさんの例でいうと、通勤手当と固定残業代を除く総支給額は203,318円。

月平均所定労働時間は163.33時間なので、1時間あたりの賃金額は203,318÷163.33≒1,244円。

1,113円以上のため東京都の場合)最低賃金以下にはなっていないことがわかります。

雇用契約途中で変更する場合は従業員の個別同意が必要

当初結んだ雇用契約には基本給しか入っていないにも関わらず、途中から計算方法①により固定残業代の導入する場合、基本給が下がってしまうため、労働者にとっては労働条件の「不利益変更」となります。

そのため、雇用契約の途中から総支給額を変えずに固定残業代を導入変更したい場合は従業員の個別同意が必要です。

従業員ごとに雇用契約書を作成し直し、説明した上で同意を得ましょう。

途中から固定残業代を導入する場合は経営者が勝手に変更することはできず、従業員としっかりとコミュニケーションを取る必要があることに注意しましょう。

計算方法②:最初に基本給が決まっており、固定残業代を上乗せで支給する場合

固定残業代を上乗せで支給する場合の計算はシンプルです。

この場合の計算方法も先ほどのAさん、Bさんのケースでそれぞれご説明します。

ケース1:基本給のみで他の手当はないAさんの場合

【ケース1 Aさんの詳細】

  • 基本給:250,000円
  • 年間休日:120日
  • 1日の所定労働時間:8時間
  • 月30時間分の固定残業代を追加したい

Aさんの30時間分の残業代は、

250,000÷163.33×1.25×30≒57,400

30時間分の残業代(57,400円)が固定残業代として加算されるため、総支給額は307,400円となります。

給与明細の項目
・基本給  :250,000円
・固定残業代: 57,400円

ケース2:基本給だけでなく複数の手当があるBさんの場合

【ケース2 Bさんの詳細】

  • 基本給:200,000円
  • 役職手当:30,000円
  • 資格手当:20,000円
  • 通勤手当:15,000円
  • 年間休日:120日
  • 1日の所定労働時間:8時間
  • 月30時間分の固定残業代を追加したい

Bさんの場合も前述の通り、割増賃金の算定基礎となる給与額は20万円+3万円+2万円=25万円。

固定残業代は57,400円となり、さらに通勤手当も加算されて総支給額は322,400円です。

給与明細の項目
・基本給  :200,000円
・役職手当 : 30,000円
・資格手当 : 20,000円
・通勤手当 : 15,000円
・固定残業代: 57,400円

同じ30時間分でも①と②固定残業代が違うのはなぜ?

①のベース給与がまず最初に決まっている

方法、②の基本給から固定残業代を上乗せする方法、いずれも30時間分の固定残業代なのに金額が異なるのはなぜでしょうか。

理由は、割増賃金(残業代)の計算の基礎となる金額の違いです。

①の場合は固定残業代も含めたベース給与の金額を元に残業代を逆算で計算し、②の場合はもともとの基本給の金額を元に計算しているため、②の方が固定残業代の金額が高くなります。

まとめ

固定残業代を設定すると一言で言っても、方法は2つあるため注意しましょう。

固定残業の導入で不安な点があればぜひご相談ください。

Conduct

植西 祐介
税務会計事務所・社会保険労務士事務所コンダクト 代表、公認会計士/税理士/社会保険労務士